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狩野恵輔選手の引退試合を甲子園で見てきた

2017年9月27日、甲子園球場に阪神-広島のウエスタン・リーグ(二軍)公式戦を見に行った。
お目当ては、この日、引退試合をおこなう狩野恵輔選手。
このブログのテーマからは少し外れてしまうが、えらく感動したことがあったので、記事として残しておこう。

阪神タイガースの二軍は、ふだんは阪神鳴尾浜球場をメインに試合をしている。
今期の最終カードとなる阪神-広島の3連戦も、鳴尾浜球場での開催が予定されていたが、掛布雅之2軍監督の退任、そして狩野選手の引退試合の実施によって多くのファンが惜別に訪れることが予想され、27日、28日は急遽甲子園球場で開催されることになった。

年に何度か、甲子園球場で2軍の公式戦がおこなわれるが、1軍の公式戦では座れないような良い席で気軽に観戦できるのは魅力だ。
チケットは1,000円で内野席のみの販売になるが、基本的に早い者勝ちの自由席なので、開門と同時に突撃すれば、とんでもなく良い席に座れることも。
27日は狩野恵輔選手の引退試合ということで、やはりたくさんのファンが訪れたようだが、試合開始1時間前に球場に入った甲斐あって、なかなか見やすい席をキープすることができた。

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売店も営業していて、この日はビールの売り子さんも出動。
いつも通り、試合前の練習を眺めている時点で酔っぱらってしまうが、これも球場での観戦の醍醐味だろう。

肝心の試合のほうだが、2軍戦ということで、いわゆる鳴り物応援はなし。
そのぶん、投球がミットにおさまるたびにバシッという音がハッキリ聞こえ、バットがボールを捉える音の違いで、打球の鋭さが臨場感たっぷりに伝わってくる。
個人的には、応援で盛り上がるより、じっくり試合のなりゆきを見守りたいほうなので、文句なしの環境だった。

狩野選手は4番DHで出場。
先発のマウンドは、右足の腓骨骨折から復帰を目指すメッセンジャー投手というサプライズもあった。
カープのスタメンも1番天谷選手、2番梵選手、3番堂林選手、4番エルドレッド選手…と馴染みのあるメンバーで、選手名がコールされるたびにワクワク感が高まる。
天気も曇り空ながら、なんとか持ちそうな気配だ。

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2軍戦らしく、スピーディーに試合が進むなか、狩野選手は3打席目まで凡退。
打席に立つたびに声援が飛び、たとえ凡退しても、ベンチに戻る際に拍手が送られていた。
そして8回の裏、先頭打者として狩野選手が4回目の打席に向かおうとするとき、カープのベンチからピッチャー交代のコールがあった。
ここでマウンドにあがったのは、なんと江草仁貴投手。
2010年までタイガースに在籍し、2005年、2007年、2008年、2009年と50試合以上の登板を4度も記録してブルペンを支えた勇姿は、阪神ファンなら誰もが覚えているだろう。
ライオンズ、カープと渡り歩いた江草投手もまた、今シーズン限りでユニホームを脱ぐ。

このあたりから涙腺が危うくなり、狩野選手が江草投手のボールをとらえた瞬間は思わず声が出た。
かつてバッテリーを組んだこともある2人の勝負は、二塁打という結果に。
二塁ベース上から、狩野選手が江草投手のもとに歩み寄り、抱擁。
涙を拭いながらマウンドを降りる江草投手に、両軍ファンから声援が飛ぶ。
あたたかい、夢のような時間はまだ続く。

9回の表。
この回からマウンドにあがった伊藤和雄投手が二死をとったところで、掛布監督が投手交代を告げるためにマウンドに行く。
コールされたのは、安藤優也投手。
そしてDHを解除し、狩野選手がマスクを被った。
タイガースの現役選手として、2003年のリーグ優勝を知るのは、もうこの2人だけだ。
2003年、安藤投手は主力としてリーグ優勝を経験したが、狩野選手が一軍初出場を果たしたのはその翌年。
2009年には、狩野選手は127試合に出場し、安藤投手とも開幕戦をはじめ、たびたびバッテリーを組んだ。
いいときも、悪いときもあっただろう。
その2人が、同じシーズンに引退を決意し、最後にバッテリーを組む。
野球の神様を感じた。
努力を重ね、自分の仕事に懸命に打ち込んできた人には、それにふさわしい場が用意される。

そして9回の裏、同点のままラストイニングを迎えた。
二死ランナーなし、3番バッター陽川尚将選手が打席に立つ。
ネクストバッターズサークルには狩野選手。
カープの中村亘佑捕手は、外角を大きく外したところにミットを構える。
かくして狩野選手のまさかの5打席目が実現した。

球場全体が余韻を味わうようなムードに包まれ、やがてゲームセットのときを迎えた。

試合後は、まずカープのウエスタン・リーグ優勝のセレモニーがあった。
カープファンはもちろん、タイガースのファンからもあたたかい拍手と声援。
カープの2軍監督が、一塁側のスタンドに向かって、ひときわ長く、深く頭を下げていた。
水本勝己2軍監督だ。
テスト生としてカープに入団するが、一度も一軍の試合に出ることなく、わずか2年で現役を引退した。
その後、ブルペン捕手を15年以上も務め、異例ともいえる指導者に抜擢。
ブルペンコーチ補佐にはじまり、3軍統括コーチ、2軍バッテリーコーチなどを経て、2軍監督にまで上り詰めた人物だ。
ここにも、地道に人生を積み上げてきた人がいる。

カープのセレモニーのあと、狩野選手の引退の挨拶があった。
狩野選手の子どもたちによって、花束が贈呈される。
どれほど誇らしいことだろう。
タイガースのナインによって、狩野選手が胴上げされる。
ムードメーカーの今成亮太選手の姿が目立つ。
今成選手は、今年まだ一軍での試合出場がないが、それでも腐らず、グラウンドではいつもと同じ姿を見せてくれる。
同じ捕手から野手に転向した身として、狩野選手の背中をどのような気持ちで見送ったのだろうか。

ナインから胴上げをされる狩野選手を、カープの選手たちと見守る江草投手。
胴上げが終わると、狩野選手が江草投手を手招きする。
タイガースナインの輪のなかに、赤いユニフォームを着た江草投手が招き入れられ、宙を舞う。
野球を好きでよかった。
俺も今日から、自分の場所でがんばる。